2010/02/18

羽村3中生徒作品 鈴木斉先生解説


●カメラを使った授業について

これまでもカメラを使った活動はいくつか実践してきました。例えば・・・
『羽村素敵発見』・・・・・・・・地元羽村市の中で、美しい!素敵!おもしろい!きれい!と思うものを写真にとってベスト3を選び出して報告書を作る。
ファーレ立川ウォッチング』・・ファーレ立川を歩き回りながら鑑賞して、お気に入りの作品を撮影し、報告書を作る。というように、私のこれまでの授業では、カメラは鑑賞活動のレポートをつくるための写真撮影のためのツールでした。

しかし、カメラを使った授業には、様々な可能性が複合的に絡み合っていると思われます。
例えば自分の作品を撮影するという行為の中にも、ただ作品を記録するということだけにとどまらず、
ファインダーを通してあらためて自分の作品を見直し、新たな魅力を発見したり、それを使って主張するというような鑑賞行為や、作品を風景・バックとともに平面の上に切り取るという新たな制作行為としての可能性が考えられます。普段気づかなかったことに気づかせられるといった、新たな視点の誕生・獲得もあります。

また、その画面に切り取るために試行錯誤をする行為は、自己の美意識の価値観との問答の時間でもあると言えます。
さらに撮影した写真の中からベスト写真を選択するための取捨選択を繰り返す行為により、
様々な選択する条件が自分の中に定まり、自己の価値基準が煮詰められ、そして確定し、
自分にとっての『よさ』や『美しさ』の価値観が根を下ろすことにもなるわけです。
つまり、写真を撮るという行為は、自己の美的感覚を磨き上げる行為でもあり、自己の価値観を定着させる行為でもあるといえます。



●今回のカメラの授業

今回、身の回りの草花などの自然素材を使って制作する『Nature Art』という手法で、
青空Book』のタイトルを作ってみようという授業を企てました。生徒それぞれが、一文字ずつ草花文字を制作する過程をカメラで記録していこうというものです。『アースアート』の一種なわけですから、作品はその場限りのインスタレーションです。
写真に記録を残すことしかできません。出来上がった作品は風化に任せて消えていきます。自然に負荷のないエコアートです。そこにカメラが重要な位置を占めます。


制作は楽しいものでした。
学校の庭や校舎の周りに咲いている草花を『いただきます』と言って、丁重にいただいて、
それを素材に、各自のアイデアで文字をアートしました。
いやあ、学校って意外にいろんな植物があるものです。
さまざまな形の葉っぱ、いろんな色の花ばな、落ちている枝や木の実や石ころや校庭の砂。
制作する場所もさまざま。
校庭の砂を掃いてキャンバスにしたり、駐車場の灰色のコンクリート、玄関の茶色のタイルはもちろん、
日陰に見つけた苔むした場所や、芝生の上、階段を使った生徒もいました。
素材ってほんとに身近にあるんです。
生徒たちも、身近な自然に意外な発見をしたり、気付かされるという、新鮮な感覚を持った様子でした。











●まとめとして

今回の授業では、『Nature Art』を記録するためにカメラを活用した授業でした。
その場限りになる作品を、制作者の生徒自身が記録したわけで、
それは、彼らの『学びの行程』を自ら記録したとも言えるのではないかと思います。
28人の制作過程を、教師一人が把握することには無理があります。
生徒が生徒の視点で記録すること、その記録した学びの行程を教師が垣間見れる、という二重の効果も期待できます。

今後もカメラを使って『写真』という作品を制作することはもちろん、
作品制作の記録(自己価値観の確認)としての役割の可能性も、期待できるように思います。
いろいろな出会いから生まれた、新たな夢のある展開でした。




自己紹介
● 鈴木 斉(すずき ひとし) 1954生
●勤務先
 羽村市立羽村第三中学校美術科 勤務   教職33年目
●主な活動歴
   ・ 第37回教育美術賞 佳作 (財団法人教育美術振興会)     『地域の自然環境と造形教育の接点 -アースアートの可能性-』
・ 東京都現代美術館において 2004・2006 自然素材を中心としたワークショップ
・ 『アースアート』の研究を進める中、流木と出会い、『流木造形』の制作を続けている。専門は陶芸。
  『環境とかかわる美術教育』 を研究課題とし、2003年より様々な年齢を対象として、
  環境を意識した自然素材による造形活動 『スローアート・ワークショップ』を主催。

・ 1993~隔年でグループ『ZOZO展』,銀座アートギャラリー2006・2008個展
・美術による学び研究会会員  ・日本環境教育学会会員  ・大学美術教育学会会員

 美術の授業について思うこと
◎ アートの日常化・日常のアート化
・・・いつでも美術 ・どこでも美術 ・どこにも美術
・・・学校行事とタイアップした造形活動
・・・地域の自然環境に関わる造形活動
・・・校内の美術館化
・・・中学校版『造形遊び』を!

鈴木先生の写真を除くすべての写真は、General Imaging Japanより提供されたA1250で撮影されました。
心より感謝いたします。

2010/02/15

アートがあふれている。              東京都羽村市立 羽村第三中学校


 
青空BOOK ザ・アート・クラス。 このページでは日本全国の幼稚園から大学まで、あらゆる学校の美術教育の現場で実践されている、さまざまな授業やワークショップ、イベントやプロジェクトを取材し紹介していこうと思います。 記念すべき第一回は、東京の羽村第三中学校で鈴木斉先生の指導のもとに行われた“カメラを使った授業”です。ページの一番上の「青空BOOK」のタイトルは、その時の授業で生徒さんたちが、学校内の自然の素材、草、木の実、花、石、枝などを使って青空BOOK の文字を作り、写真に撮って表現してくれたものです。
 

羽村3中には、学校中にアートがあふれています。そのなかでも、等身大のひとのかたちをしたシルエットプロジェクトは圧巻です。廊下や、階段、げた箱、踊場など、それこそ、どこにでもあります。その存在感はどちらかというと、ある、というより、いる、と言った方がしっくりくるのかもしれません。実際に授業中など、廊下や階段にあまり人のいないときに、これらのシルエットたちにでくわすと、ちょっと、どきっとします。
1回目の授業は、今回制作するアース・アートとはどんなものか?を理解する導入として、まず彫刻家で写真家のアンディー・ゴールズワーシーの、アース・アートの写真を生徒たちに見せるところからはじまりました。




自然の素材をその素材のある場所で組み合わせて作るアース・アートは、環境に負荷をかけない芸術というコンセプトによって、作られた作品は作られたその場所から移動することはない。それゆえに、完成作品を写真に収めることが非常に重要であり、また、その写真自身がアートになる。という今回の授業のコンセプトを鈴木先生が説明し、「みんな、わかりましたかぁ?」「はぁーい!」という、すごく明快な返事を合図にみんなで校庭にでました。

まず先生が、同じ木の葉っぱでもこんなに色が違うこと、木の実や花など、学校の中だけでも探せばいくらでも素材は見つかることをみんなに見せました。クモの巣をなんとか使えないものか・・と試行錯誤する女子や、せみのぬけがらを集める男子がいたりして、どんな作品になるのだろう?とわれわれスタッフは胸を躍らせていました。鈴木先生の美術授業をお手伝いしている講師の大西先生が感慨深げに「不思議ねえ、普段はきれいな夕日を見てもちっとも喜ばない子たちが・・・あんなに目を輝かせて、草花に見入ってたりして・・カメラのちからかしら?」と、おっしゃっていたのが印象的でした。




翌週の2回目の授業では、1時間目でアース・アートを作って写真に撮り、2時間目でその写真をみんなで鑑賞する。というふつうの倍くらいのペースで進行しないと間に合わないスケジュールのものでした。時間が勝負に見えました。




生徒たちの集中力はすさまじく、もくもくとためらうことなく、どんどん作品ができていきました。みんなすでになんらかの完成イメージをもって突き進んでいっているように見えました。なによりも、楽しんでやっているのがひしひし伝わってきました。


生徒たちの作品に向かう喜びとパワーと集中力はひょっとすると、日常的に大量のアートに囲まれた校舎で過ごすことで自然に培われた“羽村3中アート気質”によるところが大きいのかもしれない。違うかもしれない。ただ、われわれ青空BOOK が、「あー、おれも、こんな校舎で鈴木先生のこんな授業を受けたかったなあ・・うらやましいなあ、いーなぁー羽村3中・・」と感じたことだけは確かでした。


次回では、羽村3中のアース・アート。生徒さんたちの作品をたっぷり紹介したいと思います。

最後に、今回の“カメラを使った授業”にあたり、快くカメラを提供してくださった、ジェネラル・イメージング・ジャパン株式会社に感謝いたします。





取材:宮本一郎(warelights )